企業経営には1つの原則がある。それは「世間の風は冷たい」ということだ。
それを式で表すと、R-C>0。つまり、「売上」(R:Revenue)が「コスト」
(C:Cost)を上回らなければならない。仮に不等号が逆を向いたままで数年が経過すると、その企業は(好むと好まざるとにかかわらず)市場からの退場を余儀なくされる。
プロジェクトマネジメント(PM)でも「世間の風は冷たい」。そのため、PMでは、QCDのバランスをとることが大切である。つまり、①「品質とスコープ」(Q&S)と②「コスト」(C:Cost)、③「納期」(D:Delivery)の「三大制約条件」(Triple Constraint)に折り合いつけろ、ということだ。だが、この3つは、いわば「三律背反」の状態にある。例えば、①「品質とスコープ」を高めようとすれば、②「コスト」か③「納期」(あるいは両方)にしわ寄せがいく。「コスト」を下げようとすれば、「納期」か「品質とスコープ」(あるいは両方)にしわ寄せがいく。「納期」を早めようとすれば、「品質とスコープ」か「コスト}(あるいは両方)にしわ寄せがいく。まさに、「あちらを立てればこちらが立たず」である。だから、プロジェクトの依頼者(スポンサー)が、あらかじめQCDの間に優先順位をつけておくことが鉄則である。
とはいえ、日本で行われるプロジェクトでは、「コスト」と「納期」は、実質的に「所与」であり、変更不可能との認識が広がっている。変更要求に伴い、顧客に「コスト」の増額を申し入れても、「ない袖は振れぬ」と言われる。さらに、業界によっては「納期厳守」という美学が定着しているところがある。(ここに問題があるとの本質論はここではおくとして)ではどうするか?
畏友・庄司敏浩さんの講演から、よいアドバイスをいただいた。それは、「スコープ」に挙げられていう項目にあらかじめ優先順位をつけておき、変更が生じて、スコープを削減する必要がある場合、あらかじめ決めた優先順位の下位のものから順に削除する(スコープ外に出す)、というものだ。「スコープ」内の項目をごちゃごちゃと、優先順位のないままにしておくと、いざ変更が生じた時、なかなか判断がつかない。「スコープ」内のどの項目を削除するか、これをゼロベースで顧客に尋ねても、すぐには答えられない。その間に時間が過ぎて、プロジェクトがいよいよ厳しくなる…という経験をお持ちの方もいるに違いない。それを避けるために、「スコープ」内の項目にあらかじめ優先順位をつけておき、優先順位の下位のものから順に削除する(スコープ外に出す)というアドバイスだ。ITプロジェクトの専門家・庄司氏の、まさに卓見である。
エッセイ
QCDのバランス、再考
2019/11/15 中嶋 秀隆