Prepare, prepare, prepare

2021/04/27 中嶋 秀隆

国際ビジネスにかかわるコンサルタントとして、よくいただく質問のひとつに、「日米のビジネスパーソンの違いは何か?」というものがある
日本のビジネスパーソンの勤勉さや細やかな心配り、チームワークの素晴らしさなどは、広く知られており、あらためて繰り返すまでもないだろう。私も日本人として誇りを感じている。だが、米国に水をあけられているものもある。その代表格が、戦略的なものの考え方と、準備の質と量である。
戦略的なものの考え方を端的に示すのが、米国PMIの「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック」(PMBOK®: A Guide to Project Management Body of Knowledge)だ。その中に、刮目すべき新理論や新たな手法は見当たらず、PMBOK®とは、いわばベスト・プラクティスの集大成である。しかし、その底に流れるのは、コントロールすべきものはすべて文書せよ、優先順位を明確にせよ、すべてのものは「トレードオフ」関係にある(出口治明『大局観』)といった、ビジネス上の大原則である。この辺りの考え方の徹底度合いは、米国に水をあけられているといわざるを得ない。
準備の質と量の差の例を紹介しよう。米国の半導体メーカー I 社では、日本の主要取引先(半導体装置メーカーなど)とトップ同士が3ヶ月ごとに定例会議を開いていた。第1四半期(1−3月)にはI社の主要メンバー数人が日本メーカーを訪ね、半日ほどの会議を行う。第2四半期(4−6月)には日本メーカーがシリコン・バレーやアリゾナ州に I 社を訪れる…という具合だ。
I 社では、主要な会議の前に必ず、「ドライ・ラン」と称するリハーサルを行う。会議の1週間前の休日に、会議の参加メンバーがカジュアルな服装でホテルの一室に集まり、半日かけて、発表用スライドのすべてを順にチェックする。修正の時間を確保したタイミング(いわゆる「マイルストーン」)で、そこまでのデータに基づき、複数の目で中味をチェックするのだ。論理の一貫性や強調ポイントを話し合い、所要時間を確認し、会議でめざす目標などを合意する。こうすることで、会議には準備万端で臨める。そして、ドライ・ランは参加メンバーの顔見せと、チーム・ビルディングの場にもなっていた。
一方、日本メーカーでは、リハーサルなしの「ぶっつけ本番」「出たとこ勝負」というところが少なくなかった。米国で会議がある場合、担当者は発表に最新のデータを盛り込むべく、出発ギリギリまでデータ収集にあたる。それをPCでスライドにまとめるのは成田空港から米国に向かう航空機の中だ。こうしてできあがったスライドが会議の直前、発表者に手渡される…という流れだ。会議の席上、日本メーカー代表の発表者は中味を十分に咀嚼できておらず、心なしか自信がないように見受けられる。質問を受けて戸惑うのも無理からぬことであろう。
そういえば、I 社の参加メンバーを率いる副社長はアドバイスとして、”Prepare, prepare and prepare” と繰り返していた。