入江昭『歴史を学ぶということ』を読んで、文章のトーンに魅せられた。「その点私は実に恵まれていた」「… 私の幸運である」「…ことも幸いであった」などの記述が、随所に見られるのだ。高校時代に米国に渡り、大変な苦労をされたに違いない学者が、歴史家として大成し、来し方を振り返っての感慨である。
同じトーンが曾野綾子の新刊『この世に恋して』にも見られる。「私が一番恵まれていたのは、たくさんの個性的な魂に出会えたことです」「私は友達運が本当によかった」などだ。こちらも、平坦ではなかったに違いな い人生を振り返る言葉だ。
経営の分野にも、上のお二人の述懐と軌を一にする指摘があり、J.C.コリンズが「窓と鏡」の比喩で、わかりやすく描き出している。「第 5 水準の指導者は成功を収めたときは窓の外を見て、成功をもたらした要因を見つけ出す(具体的は人物や出来事が見つからない場合には、幸運をもちだす)。結果が悪かったときは鏡を見て、自分に責任があると考える(運が悪かったからだとは考えない)」(『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』)。
会社経営に携わる人もプロジェクトをマネジメントする人も、以て瞑すべしではなかろうか。