学習性楽観主義

2012/01/18 中嶋 秀隆

思わぬ困難や逆境に直面した人がそこを乗り切る力を「心の復元力」といいうが、今回は中でも重要なししつである「楽観主義」について、心理学の成果を見てみたい。米国の心理学者M.セリグマンは犬を用いた実験で、無力感が学習により身につくことを発見した。一般に「学習性無力感」を呼ばれる。

犬を部屋に入れて電気ショックを与える。この場合、一方の部屋には押せば電気ショックが止められる装置があるが、他方の部屋にはその装置がなく、何をやっても止められない。すると、電気ショックが止められることを学んだ方の犬は、電気ショックを受けると積極的にボタンを押すようになった。もう一方の犬は、何をやっても電気ショックが止められないので、何の行動も起こさなくなり、電気ショックに甘んじるようになった。

次に、上の両方の犬を電気ショックが止められる部屋に移して実験を続けた。すると、自分の行動で電気ショックが止められることを学んだ方の犬は、積極的に電気ショックを回避する行動をとったが、もう一方の犬は何もしようとしなかった。ここから無力感が学習される(学習性無力感)ことが観察されたという。

これ発展させる形で生まれたのが、意欲や楽観j主義は学習により身につくという「学習性楽観主義」 (learned optimism) である。まず、人を3つのグループに分ける。グループAの人は雑音を聞かされるが、それは目の前のボタンを押せば止められる。グループBの人も雑音を聞かされるが、それは何をやっても止められない。グループCの人は何も聞かされない。

翌日、それぞれのグループの人を雑音が聞こえる状態に置くが、それは手を30センチほど動かせば止められるものである。すると、グループAの人は雑音を止める方法に気づき、雑音を止めた。グループBの人のうち2/3は何もせず、も雑音を放置したが、1/3は無力感に陥らず、自ら行動して雑音を止めた。グループCの人は雑音を止める方法に気づき、雑音を止めた。

「何をやっても変わらない」「だれがやっても変わらない」などというコメントは、学習性無力感を表すものであとうが、一方、『そうではあるけど、上を向いて』(常盤新平氏の著書)とか、「にもかかわらす笑う」(ドイツの「ユーモア」の定義)という言葉を発する人の心には、学習性楽観主義があるのだろう。
以 上