思わぬ困難や逆境に直面した人がそこを乗り切る力を「心の復元力」といいうが、これについて、今回は苦悩とタフネスの2つの面から見てみよう。
人間にふさわしい苦悩
プロジェクトや仕事では、納期が厳しいとか、予算が不足する、品質要求が高いなどの事態は日常茶飯事であり、そもそもビジネスにはつきもののことだ。現実には、そんなことよりはるかに過酷な状況を経験した人も少なくない。
世界史の中で最も過酷な経験のひとつが、第2次世界大戦でナチス・ドイツの強制収容所に入れられたユダヤ人の経験であろう。アウシュビッツには強制収容所が残されており、囚人となった人々の頭髪や、カバン、メガネなどの現物が展示され、ガス室も残っている。
囚人として強制収容所に収容されていた心理学者V.フランクルは、収容所生活で感じたことのひとつについて次のように書き記している。
「当時、私たちは、食べるとか腹をすかすとか、凍えるとか眠るとか、ミツバチのように働くとか殴られるといった人間にふさわしくない問題ではなく、ほんとうに人間らしい苦悩、本当に人間らしい問題、本当に人間らしい葛藤にどれほどこいこがれたことでしょう」
フランクルの視点で考えれば、納期が厳しい、予算が足りない、品質要求が高いなどこそが、かれがこいこがれた「本当に人間らしい問題、本当に人間らしい葛藤」といえるのではないだろうか。平時にまともな環境で、まっとうに仕事していることにつきものの苦労にほかならないからだ。
精神的にタフであるとは
心の復元力を中心に据えて精神的にタフであるとはどういうことかを考えると、それは、厳しい状況に直面したときに何も感じないという意味ではない。全く動じないとか、鉄面皮ということでもない。精神的にタフであるとは、人並みに「ショックを受け」つつも、そこから「犠牲者になる」ことなく、「向き合い」「立ち直り」「成長し」、そして「さらに大きな自分になる」ことである。
精神的にタフな人は、自分の人生を自分でコントロールしている。逆境でも、自分を失わず、冷静に考えることができる。自分を大切にして、[人生という学び舎]で学んでいる。変化はワクワクする挑戦であり、自分が成長するチャンスだととらえている…といったことである。
以 上