SMEとしてのツアーディレクター

2011/02/22 中 憲治

1月28日エジプト・ルクソールで開催されたエジプト・インターナショナル・ルクソール・マラソンにC社のマラソンツアーで参加しました。マラソンツアーはルクソールマラソン大会終了後、想定外の事態に遭遇しました。チュニジアの政変に端を発したエジプトのムバラク政権打倒デモによる混乱です。私たちがカイロ入りした頃はまだ小規模だったデモが次第に大規模なものに変わり、カイロでは夜間外出禁止令が発令されました。エジプト航空の国内便、国際便は全てストップ、インターネットアクセスも政府によりすべて閉鎖される状況となりました。

この状況の中で、ツアーディレクターのM氏が見せてくれたSMEとしての活躍をご紹介します。私たちのツアーメンバーはルクソールからカイロ空港まで到着したものの足止めとなり、カイロ空港で一晩過ごしました。翌日、エジプト航空の成田便の運航が全くわからない中、カイロ市内のホテルに入って再会を待つのか、このままカイロ空港に留まりながらいつ飛ぶかわからない成田便を待つのかどちらかを選択することとなりました。旅行会社の東京本社や、日本大使館からの要請はカイロ空港での待機、ツアーメンバーの疲労度を考慮すればホテルに入り休息、M氏の判断は大変困難だったと予想されます。結局、いくつかの条件が重なりカイロ空港でもう一晩過ごすことになりましたが、M氏は成田便が飛ぶ可能性もまだあるので、いつでも出発できる準備をしているようにと指示されました。14時頃事態が急に動き、M氏から「早急に荷物を準備して下さい、チェックインに行きます」の指示が出ました。大混乱の空港の中を、チェックイン、パスポートコントロールを通過し、搭乗待合室まで着き、不安なままの長い待ち時間の後、22時半、フライト予定から5時間遅れでエジプト航空964便はカイロ空港を離陸、12時間のフライトの後、成田空港にランディング、その後到着ロビーでは報道陣のテレビのライト、カメラのフラッシュを浴びることとなりました。帰国第一便に乗れた最大の要因は、M氏の判断です。M氏は有用な情報収集、そして経験知を生かした的確な判断力を生かし成田便の飛ぶ兆候を把握し、チェックインを急いだのです。この時点で、カイロ空港に滞在していた日本人観光客は500人(その他カイロ市内に1000人)と言われていましたので、一便の定員は約300名であることを考えれば、一刻でも早くのチェックインは勝利の必須要件です。M氏は長年の経験からそのような判断をしたのですが、後刻、何故成田便が飛ぶと分かったのですかと質問しましたが、「空港のフライト情報ボードの流れがこの便は飛ぶとの兆候を表していました。経験から判りました。」との答えでした。この他、ルクソール空港からカイロ空港に移動する時、カイロ空港での水や食料の調達が困難なことを危惧し、ルクソール空港での調達を指示されましたが、カイロ空港で空港内の唯一のコンビニエンスストアーの水も、サンドイッチ類の食糧も空っぽだったことでその判断力の正しさは証明されました。これぞSMEですね。SMEとしての的確な判断が私たちを帰国第一便の乗客へと導いたのです。