人芯経営論 ・・・目標達成をするための必須要件

2010/04/15 浅見 淳一

先の見えない経済環境や超氷河期といわれている就職環境を反映してか、書店には、自己啓発本や目標達成を鼓舞している類の本があふれています。目標に対して日にちを入れることも、目標達成の為、スキルを高めることも良いことです。しかし、日本人の特性なのかもしれませんが、なぜ(why)とか何のため(What)にとかを深く追求しないまま、すぐに手法や方法論(How To)に進んでしまいます。How Toは、有効だと思いますが、それを支える基礎(Basics)が見落とされています。

◎セルフイメージ

少し前に、女性による連続保険金殺人容疑の事件がマスコミを賑わしていました。最初は「どんな美人なのだろう」の雰囲気でしたが、顔が出ると予想外だったようで「何で?」との発言を多く聞きました。でも仮に、あのゴージャス姉妹のような女性か、ミスインターナショナルのような女性が、あなたにアプローチしてきたらどうしますか。多分、多くの人は「なにか裏があるのでは」とか「だまされるかもしれない」と心配するのではないでしょうか。それも1つのセルフイメージの例です。自分にはそのような女性が関心を持ってくれる訳がない。という自分に対するイメージです。高級なレストランで食事をしている自分、スーパーカーに乗っている自分。を想像できますか。想像できなければ、それを実現しようと思わなければ、そういうチャンスがあったとしても近づきませんよね。

セルフイメージの高い人と低い人がいます。自分を取り囲んでいる環境に対してのとらえ方がまったく逆になります。セルフイメージの高い人は、厳しい環境にいても、それを成長する糧ととらえます。辛い環境にいても、成功する途中のプロセスと考えることができます。逆にセルフイメージの低い人は、上手く行っている時でも、こんなはずはない。こんなことは一時的でいつかは必ず悪くなるはずだと思い込みます。そして悪い状況になった時には「ほら、やっぱりね」と言ってかえって安心します。

成功に向けて努力することは貴いですが、セルフイメージの高い人と低い人では、成功確率が大きく違ってきます。低くなってしまった原因はいろいろと考えられますが、ひとつには子供のころから、親や先生や周りの人にインプットされた否定的な意見の洗脳です。「何でそんなこと出来ないの」「馬鹿な子」「そんなことは、お前には無理に決まっているじゃないか」など、決して悪気はないかもしけませんが、可能性の芽を摘む発言です。

逆に、信頼された言葉をインプットされ、それを信じた人はセルフイメージが高くなります。坂本龍馬は、姉の乙女さんが信じて励ましたくれたおかげで、明治維新の原動力になりました。日本を代表する版画家の棟方志功さんは、小学校の成績が殆ど1の子供でしたが、あるとき転任してきた美術の先生が5を付けました。不思議に思って聞きに行くと「私にも棟方の絵はよく分からない。でも私が理解できないぐらいだから、きっとたいしたものだ」と言われたそうです。その先生が5をつけてくれたおかげで、世界的な版画家が生まれました。すでに引退されたある校長先生の話です。高校の卒業式のときに、どうしようもない不良だった生徒を呼んで「俺は教師生活が長いから、将来どんな生徒が大物になるか分かる。いいかお前は絶対将来大物になる」と言ったそうです。そして何十年後に同期会で集まった時にその生徒は、大きな会社の社長になっていました。その話を御礼とともにみんなに披露したところ、「俺も言われた」人ばかりでした。校長は絶対人に言うなよと念を押して、一人ひとりの生徒に言い続けてきたそうです。私はその先生に教わってみたかったです。

児童教育で有名なアメリカのスポック博士の言葉です。「世界で、たった1人でいいから、その子を絶対的に信頼して、褒めてくれる人がいたら、必ず素晴らしい優良児になる。問題児というのは、愛する言葉、褒められたことがないことからおこる」

新卒研修で若い人を見ていると周りから決められたリミッターの制約の中で生きているように感じます。人は周りからインプットされた情報に影響されて自分のセルフイメージを作り上げます。自分に影響を与えている情報をセルフチェックしてみてください。簡単ではありませんが、マイナスの情報はデリートして、プラスの情報をインプットし直しましょう。人の可能性は、間違いなく無限です。くけぐれも、怪しげな宗教や占いには頼らないでくださいね。

■今月は余談が少し多いです。「インプットされた情報の質がその人の人生の質を決める」と言う言葉があります。私は出来るだけ良い情報に接しようと心がけています。

<余談1>
今月の映画は、迷いましたがそばに行ったついでもあり、渋谷の単館でしかやっていない、韓国映画「息もできない」を見ました。満員でした。孤独で傷ついた魂の交差、不幸の連鎖、まさに心が痛くて息もできませんでした。見てから2週間たちましたが、いまだに鮮烈な印象が心に強く焼きついています。「闇の子供たち」以来の衝撃でした。監督・脚本・主演・プロデュースの1人何役もこなした才能と思い、海外の映画賞を幾つも取ったこともうなずけます。見るのに覚悟が必要ですが、ご興味があれば、是非是非ご覧ください。間違いなく掛け値なしに名作ですよ。魚は教わらなくても泳げます。鳥は教わらなくても飛べます。馬は教わらなくても走れます。でも、人は愛されないと愛することを学べません。

<余談2>
友人が、新宿の紀伊国屋で行われる、副島隆彦さんの「世界権力者人物図鑑」の出版記念講演に誘ってくれました。講演も本も1つの見識としてとても興味深かったです。少し時間が有ったので、自分の本をチェックしに行きました。なんと平積みの上、ポップまで書いて紹介してくれました。うれしくなって書いてくれた方に御礼を言おうとしましたが、あいにくすでに帰られていました。せめてもと思い一冊本を買い求めました。

<余談3>
最近、定期購読している月刊誌「致知」の5月号の書評に弊社の中嶋さんが翻訳した「リーダーの人間力」が紹介されました。さすが分かっている編集部は違います。致知出版社のメルマガに被爆二世で全聾の作曲家【佐村河内守氏】が22年かけて完成した「交響曲第一番」の演奏会が紹介されていました。気になり、東京芸術劇場でD席2,000円なので行ってきました。クラシックはよく分りませんが、台風の前の胸騒ぎ・その後の暴風のようなドラマチックな曲でとても楽しい経験でした。聞いてから2週間後に何気なくよった近所のブックオフで本を見ていると偶然「交響曲第一番」の文字が目に入りました。筆者は佐村河内さんです。その夜一気に読みました。計り知れない苦悩と想像を絶する苦痛の連続の人生です。陳腐な表現ですが感動と涙なしには読めません。「交響曲第一番」を作るときに奥さんに「現世では報われない曲を書いていきたいのだがかまわないか?」と聞かれています。でも、東京芸術劇場で演奏後に佐村河内さんが舞台に挨拶に上がられた時に、いつまでも鳴り止まなかった大きな拍手は確かに存在しています。すごい曲、すごい本、すごい人です。他の曲も聞いてみ見たいです。大切な曲と本に出会えました。

クラシックは敷居が高い印象でしたが、2,000円で聞けるコンサートが結構あることを知りました。また機会をみつけていってみようと思います。マーケティング的には、もう少し間口を広げる活動があってもいい気がします。たとえば「全席2,000円の日」「カジュアル・クラシック・ディ、演奏者も聴衆もジーンズ」「ポップス・オーケストラ、事前のリクエストでポップスを演奏」など、工夫の余地はまだまだあります。

致知は購読していますが、週刊誌を買うことはまずありません。コンビニで雑誌の立ち読みをすると、書いてある記事は様々ですが、当事者意識と代替策のないものばかりです。表現されている感情は、「批判と非難」「嫉妬とねたみ」「欲望と虚栄」などがほとんどです。そんな記事を読んで、人は幸せな気分や楽しい気持ちになるのでしょうか。心が汚れるだけのような気がします。