ジュリアーニ前ニューヨーク市長の著書『リーダーシップ』(講談社)を読んでいると、日本語の訳本の中に「阿吽の呼吸」という表現が出てきました。
9.11テロの惨事に対するジュリアーニ市長(当時)の対応がすばらしかったという評価は確定していると思います。同書ではそれを可能にした原因のひとつとして、就任以来 7 年半ほどの間にスタッフとのチームワークがしっかりできていたことを指摘しています。
ニューヨーク市政のチームワークの良さをあらわすのに、きわめて日本的といってよい「阿吽の呼吸」という言葉が使われていることに興味を覚えました。そこで英語の原著に当たってみると、その部分は“our no-look passes and hit-and-run combinations” と書かれています。「我々のノールック・パスとヒット・エンド・ランの組み合わせ」というのでしょうか。息の合ったやりとりをあらわすのに、スポーツ好きの著者(ヤンキースの熱狂的なファンです)がバスケットボールの「ノールック・パス」と野球の「ヒット・エンド・ラン」と例に引くのは自然のことかもしれません。それを受けて名翻訳家・楡井浩一氏が「阿吽の呼吸」と訳しています。
この部分は、10 人の翻訳家がいれば10通りの訳文が存在してもおかしくないところでしょう。訳者が翻訳の作業で「阿吽の呼吸」という訳語を作り出した後、歓喜の声をあげたのか、はたまた、割り切れない思いで原稿の時間切れを受け入れたのかは、お伺いしたいところです。
経済政策でひとつの状況に対する政策を論じる際、10 人の経済学者がいれば 11 個の政策が存在するという警句があります。
プロジェクトのやり方についても、ステークホルダーの間でしっかりコンセンサスを確立しましょう。10 人のステークホルダーがいれば、11個のプロジェクト計画書が存在する、などということにならないためにも。