職業としてのプロジェクト(9)

2009/04/08 中嶋 秀隆

あなたの強運度は?
ここに、運の強さを占う12の質問がある。その1つひとつにYesかNoで答えてみてほしい。
Q1レジや銀行の列で、知らない人に話しかけることがある。Q2人生にあまり不安を感じない。
Q3はじめての料理や飲み物への挑戦など、新しい経験が好き。Q4直観や本能を信じることが多い。
Q5瞑想や静かな場所に行くなど、直観を高める方法を試したことがある。Q6自分には将来いいことが起こると、おおむねいつも期待している
Q7成功する可能性が小さくても、ほしいものを求めて挑戦する。
Q8誰かに会うと、たいてい親切な「いい人」だと思う。
Q9自分に起こったことは何でも、いいほうに考えようとする。Q10悪い出来事も、長い目で見ればプラスになると信じている。Q11うまくいかなかったことも、あまりくよくよ考えない。
Q12自分の失敗から学ぼうとする。

上の12質問は、R.ワイズマン([1])に紹介されている。同書の説明に、私のコメントを加えながら、順に吟味してみよう。
まず、Q1にYesと答えた人は、運のいい人である。「運のネットワーク」を築き、広げているからだ。先日の朝、東京都内のホテルのエレベーターの中で、1組の若い日本人カップルと数人の外国人と一緒になった。カップルが大きな紙袋を抱えていのを見て、外国人のひとりが「ずいぶんたくさん買い物したんですね」と話しかけた。すると、その女性は「買い物ではありません。昨日、ここで結婚式を挙げたんです。この男性が私の夫です」と、嬉しそうに答えた。その瞬間、エレベーターは歓喜と「おめでとう」の言葉であふれた。
Q2にYesと答えた人は、運のいい人である。肩の力を抜いて生きているからだ。
Q3にYesと答えた人は、運のいい人である。新しいもの好きだからだ。世の中は「限りない生成発展」を続けるもの([2])であり、現状に満足していたのでは向上はない。
Q1からQ3を通じて、運のいい人は、一般に、偶然のチャンスを見つけたり、みずからつくりだしたりして、それ基づいて行動する。
Q4にYesと答えた人は、運のいい人である。直観と本能を信じて正しい決断をするからだ。「自分の運を信じている人は誰よりも幸福だ」という諺が、ドイツにあるそうだ。
Q5にYesと答えた人は、運のいい人である。直観と本能に耳を傾けるからだ。梨木香歩の小説([3])では、先輩の魔女が後輩の魔女にアドバイスしている。「魔女は自分の直観を大事にしなければなりません」と。
Q4とQ5をまとめると、運のいい人は、一般に、直観と本能を信じて、正しい決断をする。
Q6にYesと答えた人は、運のいい人である。幸運が将来も続くと期待しているからだ。映画『マイ・フエア・レディ』にあるように、いわゆるピグマリオン効果(「自己達成予言」)が働くからだ。ペンを口にくわえて漫画を読む時を考えてみよう。この時、ペンをくちびるでくわえるのと歯でくわえるのでは、どちらが漫画をより面白いと感じるか?答えは、歯でくわえる場合だ。ペンを歯でくわえると、もう顔は半分笑っている。身体のレディネスが心のレディネスを促進し、漫画をより面白く感じる。これを敷衍すると、成功者は「成功したからウキウキワクワクするのではなく、ウキウキワクワクしながら仕事をしたから成功してしまった」([4])ということになる。
Q7にYesと答えた人は、運のいい人である。たとえ可能性がわずかでも目標達成に向け努力し、失敗してもあきらめないからだ。パウシュ教授によれば、「自分にできると思っても、できないと思っても、それは正しい」([5])。
Q8にYesと答えた人は、運のいい人である。対人関係がうまくいくと思っているからだ。対人関係がうまくことで、協力者を得、自分よりすぐれた人たちの能力を活用することができれば、大きな成果が必ず生まれる。
Q6からQ8を通じて、運のいい人は、一般に、将来に対する期待が夢や目標の実現をうながしてくれる。
Q9にYesと答えた人は、運のいい人である。不運のプラス面を見ているからだ。アラン(フランスの哲学者)は「ペシミズムは感情の所産、オプティミズムは意思の所産」といっている。私は最近、ソニー・井深氏の「設立趣意書」を読み、とてつもない“オプティミズム”に心を打たれた。第二次対戦後の混乱の中で、日本の再生を確信し「愉快なる理想工場」の建設を謳いあげた心意気に対してである。
Q10にYesと答えた人は、運のいい人である。不幸な出来事も長い目で見れば最高の結果になる、と信じているからだ。「人間万事塞翁が馬」という教えを思い出させる。前述したツキの波のアップダウンの中で、たとえ下降局面にあっても「いずれ上向く」と強く信じることができる人である。
Q11にYesと答えた人は、運のいい人である。不運にこだわらず、切り替えが早い。他人と過去は変えられないが、自分と将来は変えられる。自分の身に起こることの大半――例えば90%([6])――が自分の責任であると認識すれば、不運な出来事があっても、それにいつまでも引っかかってはいられない。
Q12にYesと答えた人は、運のいい人である。積極的に行動して将来の不安を予防するからだ。Q9からQ12をまとめると、運のいい人は、一般に、不運を幸運に変えることができる。

運の強いプロジェクト・マネジャーになる
プロジェクト・マネジャーとして成功するには、PMBOK等が教える標準手法を身に付ける必要があるが、それだけでは十分ではない。運の強い人でなければならない。その指針は上の12の問いにある。そのすべてに、意識してYesと答えよう。そうすることが、パフォーマンスに違いを生む力となる。それは、引き受けるプロジェクトの選択から始まって、計画策定、実行・コントロール、終結に至るすべてのプロセスに妥当する。

参考文献
[1]R.ワイズマン『運のいい人、悪い人』角川書店、2004年[2]松下幸之助『実践経営哲学』PHP、2001年
[3]梨木香歩『西の魔女が死んだ』新潮社、1994年
[4]西田文郎『No.1理論』三笠書房、2006年
[5]R.パウシュ他『最後の授業』ランダムハウス講談社、2008年[6]D.H.Johnston,LessonsforLiving,DagaliPress,2001
”『プロジェクトマネジメント学会誌』より転載”