話し手としてのパウエル氏

2008/10/31 中嶋 秀隆

2000年10月のPMI北米大会(デンバー)は、コリン・パウエル氏の基調講演で幕を開けた。氏は、前日、17日後に迫った米大統領選でオバマ候補を支持することを表明したばかりで、政治的思い入れを持ちつつ氏を迎えた聴衆も少なくない。ごく最近の国際政治のエピソードや裏話が満載された名講演だったが、なかでも出色だったのは、国務長官時代のいくつかの国際紛争の裏話を説明したあとで、「こうして第三次世界大戦を回避した」と語ったことである。パウエルは、強面のイメージとは裏腹に、素晴らしい話し手である。

レーガン政権で補佐官をしていた時、レーガン大統領がモスクワにゴルバチョフ大統領を訪ねることになった。その際「私は今度モスクワに行くが、まず君が先に行ってくれないか」と大統領が依頼するようすをレーガン氏のさながらの声色を使って話し、聴衆を驚かせた。

また、「あなたは米国人リーダーのお手本(ロールモデル)といわれるが、ご自身がリーダーとしてお手本にしているのは?」と訊かれ、先輩の軍人を挙げた。第二次大戦や朝鮮戦争を経験したベテラン軍人たちである。その人たちが、夜の酒場でアルコールをあおりながら「そもそも軍人たるものは・・・」と、いろいろなアドバイスをしてくれたという。そういう酔っ払いがロレツが回らない口調でゴタクを並べるさまを、古今亭しん生(五代目)の人間描写にも劣らないみごとさで再現してくれた。

軍人出身の政治家らしく、米国のよさを強調することも忘れない。氏が、国際的に活躍するある日本人ビジネスマンに「どこの都市いちばん気に入っているか?」を訪ねると、間髪を入れず「ニューヨーク」という答えが返ってきたという。「なぜニューヨークなんだ。パリでもローマでもなく?」と聞き返すと、その日本人ビジネスマンは「私が出張先で滞在するホテルから歩いて出かけると、すぐに誰かに道を訊かれる。世界広しといえど、こんな街は他にはない」との説明だった由。米国の長所のひとつが、開かれた姿勢(Openness)と、多様性を受け入れことにあると強調していた。