蛙について最近知った、2 つの話を紹介しよう。
ひとつ目は、大原美術館の理事長さんの講演から。岡山県倉敷にある大原美術館のモネの「睡蓮」の前で、訪れた小学生の一団に何が見えるかを尋ねると、ひとりの男の子が「蛙がいる」といった。ここにある「睡蓮」は、数あるモネの「睡蓮」のうちでもいわば標準的なものだ。太鼓橋があるわけでもなければ、大輪の花が咲いているわけでもない。いぶかしく思ってどこに (?) ときくと、「あの蓮の下に隠れている」と答えたという。若い頭脳の柔らかさに、脱帽である。
もうひとつは、哲学者・岸見一郎氏の著作から。2 匹の蛙がミルクの入った壷のふちのところで飛び跳ねていたが、突然、ミルク壺に落ちてしまった。1 匹の蛙は、ああもう駄目だ、と叫んであきらめてしまった。そしてガーガー泣いて何もしないでいるうちに、結局、溺れ死んでしまった。もう 1匹も同じように落ちたが、なんとかしようともがき、足を蹴って一生懸命泳いだ。すると足の下が固まった。ミルクがチーズになったのだ。それでピョンとその上に乗り、外に跳び出すことができた。岸見氏は、何とかなるかどうかわからないけれども何ともならないと考えることはない。とにかくできることをやろうと思ってできることをする…という取り組み方を「楽観主義」と定義している(『アドラー心理学』ベスト新書)。
上の 2 つの話は、リスク・マネジメントの観点で、どちらも示唆に富む。ひとつ目の小学生の男の子がいった。蓮の下に蛙が隠れているという発言は、想像力の賜物であろう。プロジェクトのリスクとは将来起こりうる出来事でプロジェクトの成功を脅かす事象のことだ。リスク・マネジメントは、そういう事象を多数洗い出すことから始めるが、その鍵となるのが豊かな想像力である。
2つ目の話で、もう 1 匹の蛙が、なんとかしようともがき、足を蹴って一生懸命泳いだのは、リスク・マネジメントでいう「迂回策」にあたる。リクス・マネジメントの基本はリスクを想定し、あらかじめ手を打つことにある。とはいえ、すべてのリスクを想定するのは至難であり、想定していなかったリスクが発生することもある。このとき、粘り強く取り組むことで、活路が開けることもある。