精神的にタフであるとは 3.移行の 3 フェーズ――「胆力」ということ

2012/07/15 中嶋 秀隆

思わぬ困難や逆境に直面した人がその修羅場を乗り切る力を英語で「レジリエンス」といい、日本の手引書として『再起する力』を発刊していただいた(生産性出版、4 月 23 日)。
今回も、精神的にタフであるということを考えよう。

厳しい状況でのショックには、誰もがすぐに「向き合う」ことができるわけではない。びっくりするとともに、「ふざけるな!」「こんちくしょう!」「あの馬鹿が!」といったマイナスの感情で心が満たされるのが普通である。誰にでも感情がある。ここで感情に流されず適切に対処するためには、まずマイナス感情を上手に吐き出す必要がある。びっくりしたという事実を「エーッ!」などと言葉に表すこともいい。プロ野球では、ノックアウトされた投手がダッグアウトに戻ってグローブを投げつけたり、ベンチを蹴飛ばしたりすることがあるが、(程度にもよりますが)悪いことではない。「マイナスを吐き出す」行為だからだ。だが、ここで留まっていたのでは有効に対処することはできない。心の中をマイナスの感情からプラスの思考へ入れ替える必要がある。

そのためには意識して「中和する」という作業をしなければならない。すでに起こったことについて「これも人生の一部」「これに負ける私ではない」「過去と他人は替えられない」など、自分を適切な方向に向けるメッセージを心の中で総動員して、マイナスの感情を減らす努力をする。こうして怒りやマイナスの感情を沈静化する。ここでは、セルフトークがものをいうことになる。マイナスの感情を中和させたら、プラスに転じて冷静な思考に注力し、どう状況と「向き合う」かを考えることになる。この3つのフェーズをすばやく確実に進める人が「胆力」(精神の動揺を鎮める力)を備えた人である。この流れを図に表すと左のようになる。ここで、注意したいことがある。それは、3つのフェーズが常にスムーズに進むわけではないということだ。心の中に占める感情と論理の割合はでこぼこの起伏を描くのが普通である。嬉しいことや面白いことが記憶に浮かぶと「思い出し笑い」をすることがあるように、つらいことや苦しいことも記憶や悔しさが心の中に蘇ったり、反芻したりするのが普通である。大切なのはこのプロセスを経て、やがてはマイナスの感情がプラスの論理に所をあけ渡すことである。これによりショックが「リセット」される。

ここで、昨今のビジネス現場を念頭に置いて、移行の3つのフェーズを進む際の落とし穴を見てみよう。
その1つめは、まじめさの呪縛である。「まっ、いいか」「そういう日もあるさ」「見切り千両」などと割り切るべきときに、まじめさが邪魔して割り切れない。2つめが、たった1つの正確を求める傾向である。そして3つめは、手に負えないのに手を挙げないという誤ったプライドである。4つめは、自己責任と思い込み、自分を責めたり、自分をダメだと思い込んだりする傾向である。これは単なる誤解に過ぎない。どれについても、適度なチャランポランが解決策となる。

(次回に続きます)