プロジェクトマネジメントの進め方では、いわゆる「十人十色」はよろしくない。手法を標準化し、それに沿って行うべきだ。コンサルタントとして、私はこれまでこう説いてきた(拙著『PM プロジェクトマネジメント』)。だが、その後の考察を踏まえ、これはすこし単純すぎるのではないか、と考えるようになった。
プロジェクトの進め方は、業界によって実にさまざまである。例えば、ものづくり工事プロジェクトは通常、「契約」→「設計」→「調達」→「製作」→「輸送」→「建設・設置」→「試運転・調整」→「引き渡し」のステージを踏む。また、工場や発電所などの建設プロジェクトは「EPC 契約」のもとに、「設計」(engineering) →「調達」(procurement) →「建設」(construction) の順で進むのが普通だ。さらに、IT 業界のシステム構築プロジェクトは「要件定義」→「基本設計」→「詳細設計」→「コーディング」→「単体テスト」→「結合テスト」→「マニュアル作成」という流れが一般的である。新薬開発プロジェクトは産業界の中でも異彩を放つもので、動物実験に始まり、治験プロセスでは、少数の健康者が対象の「フェーズⅠ」→少数の患者が対象の「フェーズⅡ」→多数の患者が対象で、既存薬との比較や有効性の確認をする「フェーズⅢ」→ 行政当局から新薬の許可申請を得る「ファーズⅣ」があり、フェーズごとにマイルストーンが厳格に設定されている。
そして、同じ業界内の類似プロジェクトでも WBS の粒度(大きさ)やネットワーク図での順序設定、リスク許容度など、各社・各人によって、さまざまな取り組み方が見られる
。
新聞に面白い記事を見つけたので、引いてみよう。「仲間と食事の話をしているときに、最初に好きな食べ物から食べるか、好きな食べ物を最後に残しておくかが話題になった。私は好きな食べ物は最後に残すタイプだが、まったく逆の人もいて話が盛り上がった。私が好きな食べ物を最後に食べるのは、最後まで食事を楽しむことができると思うからだ。一方、最初に好きのものを食べる人たちは、そうすることで気分が良くなって、最後まで食事を楽しむことができると考えるという。」(「朝日新聞」2016 年 7 月 3 日)
プロジェクトマネジメントには、WBS やクリティカル・パス、さらにリスク・マネジメントなどの手法が確立しており、プロジェクトの成功には、それにもとづくことが必須である。だが、その原則を守るかぎり、細かな点は各社・各人の持ち味に任せるのがよいのではないだろうか。その意味で、「十人十色」はよろしくないと一律に断じるのではなく、標準手法に依拠しつつ、各社・各人の持ち味が多様に発揮されるという一段上の「十人十色」をめざしたい。