思わぬ困難や逆境に直面した人がその修羅場を乗り切る力を「心の復元力」といい、それは、1)健康、2)問題解決、3)自信・自尊心・自己イメージ、4)開かれた心と学習、5)セレンディピティの5つからなる。今回からは、4)開かれた心と学習を取り上げよう。開かれた心と学習には、①好奇心、楽観主義、柔軟性という3つの特質、②成功への取り組み、③〔人生という学び舎〕で学ぶ、④共感とシナジーの4つの要素があるが、今回は、①の柔軟性に集中しよう。 柔軟性とは、物事に柔らかく、しなやかに対処することだ。これにはまず、人間としての「幅と奥行き」が求められる。
大半の動物や、人間でも生まれたばかりの赤ちゃんは、刺激に対して一様の反応をする。赤ちゃんはおなかがすいたおむつが汚れると、泣き声で不快を表す。よく言えば純粋・無垢の状態であり、悪く言えば未発達で極めて単純な、単細胞状態である。この状態を温存したまま年を重ねると、「直情径行」型の成人ができあがるが、こういう人はとかく修羅場に弱い。
人間は異種の幅広い経験を積むと、矛盾を抱えた複雑な存在になる。そして、やがては「清濁併せ呑む」「酸いも甘いも?み分ける」といった特質をもつようになる。つまり、「フロー体験によって自己の構成はそれまでよりも複雑になる」(M.チクセントミハイ)というわけだ。単細胞で単純な人には、修羅場を乗り越えることが難しい。自分に降りかかる出来事に、単一の対処しかできないからだ。つまり、ある刺激に対し、決まりきった一つの反応しかできない。自分の身に降りかかることが何であれ、同じ姿勢と武器、道具で立ち向かおうとするわけだ。経営の世界に「トンカチの打ち方が上手な人は、何を見ても釘にみえる」という警句があるが、まさにこれに近い状態だ。
しかし、成長を遂げた人は自分の中に、相反する特質を同時に備えていることが多い。そういう人は、矛盾にあふれているが、相反する特質をあわせもつことで、いろいろな状況に対応できる。その人の複雑さが、多面的な対応を可能にするからだ。 多くの逆境を乗り切り、人生の大転換を遂げている人には、相反する特質が見られる。
例えば、水道の蛇口から出る冷水と温水の使い分けを考えてみよう。水を飲む時は冷水を出し、油が付着したフライパンを洗うなら温水を使う。そして、手洗いには、冷水と温水を混ぜて使う。
そういう意味で、自己矛盾は悪いことではない。むしろ、難局や修羅場を乗り切るには、矛盾を抱えていくことが不可欠の特質といってよい。
では、あなたは自分の中に、次のような相反する矛盾した特性をする特性を併せ持っているだろうか?
○ 理性的 かつ 人情家 (冷静な頭脳 かつ 温かな心)
○ 楽観的 かつ 悲観的
○ 思慮深い かつ 大胆
○ 注意深い かつ 他人を信頼する
○ 利他的 かつ 利己的
○ 深刻 かつ いたずら好き
○ 創造的 かつ 論理的
○ 衝動的 かつ 慎重
○ 仕事熱心 かつ 怠け者
○ ネアカ かつ ネクラ
○ 落ち着きがある かつ 情緒不安定
○ 内向的 かつ 外交的
○ 協力的 かつ 非協力的
○ 生真面目 かつ 遊び心に溢れる
○ タフ かつ やさしい
変化が激しい、今日のビジネス環境での原則は「理と情のバランス」(ただし、理が優先)であり「慎重な楽観主義 (Cautiously Optimistic) であろう。
最後に「自己矛盾のすすめ」の寓話として、『星の王子様』(サン=テグヂュペリ)の一節を引いておこう。
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「次の星には、呑み助が住んでいました。呑み助は空のビンと酒の一杯入ったビンをズラリと前に並べて、黙りこくっています。
「君、そこで何してるの?」 「酒、呑んでるよ」
「なぜ、酒なんか呑むの?」 「忘れたいからさ」
「忘れるって、何をさ?」 「恥ずかしいのを忘れるんだ」
「恥ずかしいって何が?」 「酒呑むのが、恥ずかしいんだよ」
大人ってとってもとってもおかしいんだなあと、王子様は旅を続けながら考えていました。
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(次回に続きます)