筆者が勤務していた企業での体験である。新しい職場に配属になりしばらくしたとき、部長に呼ばれて少しまとまった仕事を依頼された。10分くらいの説明があり、これを1週間くらいで報告してほしいがどうか?と聞かれた。仕掛りの仕事を後回しにすれば何とかできそうだったので時間は問題ないと思い、2~3のやり取りをし、納期を確認した。手持ちの時間は不足気味なので早速とりかかろうと思い席に戻ろうとしたら、部長から思いがけない質問があった。いま頼んだ仕事についてこれから作るレポートのタイトルを聞かせてくれないかというのである。名は体をあらわす、仕事にタイトルをつければとんでもない見当違いの作業は避けられる。そこで一行メモに書いたら、それは少し違うと言う。もう一度書いた。それも違っていたようで、頼んだことはこういうことだよと言って三度目は自分で書いてくれた。説明とマッチしたよくわかる一行だった。それにより、筆者のその後の作業が的外れのものにならずにすんだことはいうまでもない。
人に仕事を頼むとき、目的や出来上がりのイメージを的確に伝えることが欠かせない。何のイメージも無いまま、とにかく何時までに頼む(納期だけはやたらに明確である)というやり方では仕事を引き受けるほうはたまらない。何案も検討しなくてはいけないし、しかもそのほとんどが無駄な作業になる。こういうやり方が続けばやる気が失せるのは当然の結果であろう。依頼主としての段取りができていないのである。我々がプロジェクトの現場でよく聞く嘆きの声である。
プロジェクトを依頼されたとき、時間をおかずにそのプロジェクトの概要を作成し依頼主と確認することをプロジェクトチームにおすすめしている。「概要」としては、ODSC(目的・成果物・成功基準)、骨格となるネットワーク図の2点である(スケジュールは必須ではない)。依頼主の立場で「あなたの依頼したかったことはこういうことですね」という確認作業である。一見、回り道のようにみえるが、お互いの時間を無駄にしないための必須のプロセスと考えている。ここでプロジェクトの依頼主にお願いしたいことは、ODSCや骨格ネットワーク図などについて自分でも書けるスキルを身につけることである。依頼主としてその程度の段取り能力がなければプロジェクトの円滑な運営はできないし、現場のやる気にも影響するからである。依頼主は段取りの勉強が足りない、筆者の率直な実感である。
エッセイ
依頼主は勉強が足りない
2007/08/28 津曲 公二