前回は、マーケッティングにおける心理学的手法を幾つかご紹介いたしました。同様の手法はまだまだありますので、前回紹介しきれなかった分を、もう少し書きます。人は物を買うときのプロセスは、まず、理性で、値段や機能や必要性などを判断します。その後、最終的に買うか買わないかの決断は、感情の領域で判断します。
人は、他の生き物と比べて、特別な存在だと考えがちですが、多くの生き物同様に、生物の一種族です。広告宣伝は、人の本能的な欲求に訴えかけます。
心理学的広告手法
同調行動…
人と同じ行動をとることにより、リスク避け、仲間はずれにならないようにしようとする心理です。心理学者アッシュの実験で、9人の被験者に事前に直線を見せ、次に3本の直線を見せ、同じものを選ぶテストを行い、わざと前の被験者8人に間違った解答をさせると、9人目も間違った解答をするそうです。これは、行列効果にも現れます。人は行列を見ると、なぜか並びたくなります。新製品の発売に際して、さくらを雇ったり、意識的に販売数を制限したりして、行列を作り出します。他人と同じ行動をすることにより、安心感に繋がる心理です。多くの意見が、必ず正しいとは限らないのに、自分で判断することをしなくなってしまいますね。
条件付けされた行動…思いがけない幸運の為に、やめられなくなる心理です。米国の行動心理学者スキナーが行ったねずみの実験で、レバーを押すと餌が出る仕掛けを作り教えました。ある時から、餌が出ないようにすると、ねずみは、レバーを押さなくなりますが、出たり出なかったりした場合には、いつまでも行動が継続されたそうです。これは、ギャンブル効果に現れます。人は、宝くじや競馬やパチンコなど、当たったり当たらなかったりすることによりかえって止められなくなります。思いがけない快感を味わうと、行動が習慣化されてしまいます。ギャンブルにはまる人もねずみも行動原理においてはたいした違いがないということですね。(笑)
希少性の原理…「希少価値」や「限定商品」などに、価値を見出して、それを手に入れた自分自身も、特別な存在と感じて、満足感を得る心理です。社会心理学者ウォーチェルの行った実験で、二つのビンの中に、同じクッキーを入れ、片方には10枚、もう片方には2枚を入れて、被験者に食べてもらったところ、多くの人は、2枚のビンのクッキーのほうを美味しいと答えたそうです。これはブランド効果に現れます。ブランド物のバックなどが売れるのは、「希少価値のある物」を「持てる自分」は「価値がある」と感じる心理も一因です。持ち物によって自分の価値は変わらないのに、ちょっと悲しい勘違いですね。広告宣伝は、人の欲望をコントロールし、情報を提供する側の望む方向に誘導する側面と、素晴らしいものを世の中に知らしめる側面の両面があります。現代では、人の心理を考慮した手法が多用されています。だからこそ、受け取る側の主体的に判断する能力が、必要とされています。