「われらが町」より

2018/02/15 中嶋 秀隆

 Q: 1年12か月の中で、女性の口数が最も少ない月は?
 A: 正解は2月。12か月の中で、最も日数が少ないから。
 こんなジョークがあるが、ある調査によると、女性の口数は男性の約3倍とのことだ。
 その女性の口数の多さに男性が救われることが少なくない。米国の戯曲『われらが町』(Our Town、ソーントン・ワイルダー作) にそれを示すやり取りがある。娘が嫁ぐのを目前にした日の医師夫妻の会話だ。

医師「ねえジュリア、おれたちが結婚したとき、おれがこわかったのは、わかるかい?」
夫人「もうおよしなさいよ!」
医師「おれがこわかったのは、ひと月もすれば会話の種がなくなるんじゃないかと思ったんだよ」
 2人は笑う。
医師「話が種切れになったら、黙りこくって飯を食うことになるかとこわかった。いやほんとだよ。ところが、おれたちはもう20年間しゃべり合っているが、とくに大きな穴もあかなかった」
夫人「そうね、お天気がいいとか悪いとか、とびきり上等の話題ではないにしても、私がいつも何かしら話すことを見つけたわ」
 
 最後の一文は、原文では ”but I always find something to say.”であるが、既刊の邦訳では、主語を明らかにせず、「なにかしら話すことはあったわね」としている(鳴海四郎訳)。しかし、原文では話題提供者がいつも夫人のほうである。邦訳が話題がそこに存在したかのように表現しているのに対し、原文では、夫人が主体的に話題を見つけたとしている。
 そのおかげで医師の心配が杞憂に終わったのであるなら、男性は女性の口数の多さに感謝し、乾杯すべきであろう。